サンディエゴ日本庭園ギャラリー 2022年2月11日〜5月1日

橋本修一 個展「記憶の中の風景~湿度と光~」

 私は山歩きや散歩をこよなく愛する。楽しく散歩する秘訣は目的地を目指すのではなく、常に目の前の風景を楽しむ事。目の前に広がる風景は私の心を浄化し、希望をかき立ててくれる。
それらは、どんな時も今置かれた状況を楽しむという私のライフスタイルにも繋がる。コロナ禍においてもその思いは揺るぎない。
 長年の日本各地の山旅で出逢った風景が私の記憶回路に焼き付いている。70歳を過ぎた今、近くの川土手や公園を散歩する時、それらの記憶が眼の前の風景と重なって蘇る。そして、これまでに自ら描いた絵や、目にした絵画やデザイン、映画の中で出逢った風景とも重なり合い新しい風景を紡ぎだす。私はそれらをCGの力を借りて、リミックスするように描い(奏で)てみることにした。

 今回の個展では「湿度と光」をテーマに、私の記憶回路の中に眠る記憶の風景を描きたいと思う。
しとしと降り続く雨や、じめじめした環境が日本の多彩な文化を育んだと最近考えるようになった。私はこの湿度と光が作り出す多様な風景を求めて山や渓谷を歩いていた気がする。夏のじめじめした湿度を好まない人が日本では多いが、乾燥したサンディエゴの人たちにとっては最高のプレゼントになると考た。

 最後に何故風景を描くかについて触れることにしよう。子供の頃から一人で空想して遊ぶのが好きだった。現実世界から離れ自分だけの世界に入り込める映画鑑賞に夢中だった時期も、人が関わる事で生まれる様々な人間ドラマではなく、背景の風景や情景に心を奪われた。風景はいつも私の想像力をかき立ててくれる。好きな山歩きも、日常の煩わしさや人々との関わりから距離をとり、仙人の様な生き方に憧れながら、一方でその感動や喜びを分かち合いたいたいという願望や雑念にとらわれ仙人にはなれずにいる。今も風景を求めて山あるきや散歩を愛し、電車やバスに乗るときは携帯電話をオフにして窓の外を流れる風景をぼ~と見ているのが至福の時間だ。